簡 単 服
「その洋服着たいわ」
「自分で作ったのよ。簡単よ。和服を解いて、洗い張りしてもって見えれば、作ってあげますよ」
 近所の主婦は、早速着物を解き、洗い張りをし、数日すると、いそいそと持ってきた。
「一ヶ月程、時間くださいね」
「まあうれしい。待ち遠しいわ」
 戦い敗れて、新しい暮らしと文化を形成していかなければならない婦人会長としては、新しい暮らしは新しい装いからと、身を挺したのである。
「開襟シャツ、出来上がってますよ」
 その知らせに、満面の笑みに期待を込めて、走るようにしてやってきた。
「まあ、素敵。お代おいくら」
「要りませんよ、友達ですもの」
「そんな、わるいわよ。でもほんとにうれしい。ありがとう」
 できあがった開襟シャツを胸に抱いて、弾むように両腕を揺すりながら、小走りに帰って行った。
 まもなく走る様に尋ねてきた彼女の上半身は、真新しい開襟シャツに包まれていた。開かれた襟の間からは、明るい自由の喜びが溢れていた。
「ぴったりで、こんなに素敵よ。似合う」
「似合うわよ。着物の柄が明るかったから。身体にぴったりでよかったわ」
「ほんとにありがとう」
 彼女は礼を言って、また小走りに帰って行った。
 開襟シャツは大はやり。戦争中のもんぺ姿から、新しい自由な世界への、女たちの旅立ちだったのだ。
「喜んでたね」
「そうね、食べるものには事欠いても、女の人は綺麗にしなくちゃね」
 庭先には、春の花々が咲きみだれ、華やいでいた。