墜     落
 二人の兄が、憧れの内地からやって来た。
「遊びに行ってきます」
「山に行くなら、蝮に気を付けて」
 三人は、蝮よけに、棒で畦道の草を叩きながら、歩いて遊んだ。段々畑の山の斜面を登り、岩を切り落とした急な階段を下り、ゴロゴロ岩の沢に出て、船底を利用して掛けた橋にさしかかった。
 橋の向こう側には、橋の上に水車小屋のための樋がかかり、その水で橋の端がのりでぬめっていた。
 二人の兄は、上手に樋を飛び越えて向こう岸に渡ったが、三人目は、幼かったためそこを飛び越えられず、滑りに足を取られた。
 五メートルもあろうかと思われる川底には、近くの石切場から出た尖った切石が捨てられていた。身体は、その上に舞い降りた。何の痛みも不安も感じなかった。
 向こう岸で洗濯をしていた中学の女教師が、見事に丸々太った身体をゆさゆさと揺すりながら、水をかき分け、水しぶきを上げて近づいてくるのを見ながら、失神するのを感じていた。
「眉間を縫ったよ、もう一センチ下だったら、死んでいたぞ」
 という声で目が醒めた。
 そこには、治療室の白いベットをのぞき込む笑顔があった。
 そのときの傷は、今も鮮明に、あの夏の、懐かしくも楽しい思い出のよすがとなっている。

 心のつながりは、どのようなものをも大きく包み、暖かさと豊かさに変えていき、美しい世界を広げてくれる。