雨のカーテン

「オーイ、雨がくるよー」
 細い白砂の浜にそそりたつ山の中腹から、のんびりとした叫び声が聞こえた。定置網に魚群が入ったことを知らせるために造られている監視小屋からの漁師の声である。
 遠くの浜にある家のあちこちから人が出てきて、洗濯物を取り入れる姿が小さく見えた。
 夏の太陽にさらされた砂浜は、ぐったりとした暑さに満ち、太陽の光はもう少しで山影に隠れようとしていた。
 海は凪ぎ、一日の終わりのきらめきを残し、空は真っ青に澄みわたり、沸き立つ入道雲をいやが上にも浮き立たせた。
 漁師の声に、遥か、岬の方に目をやると、黒い小さな点が現れた。その点は少しずつ大きくなり、みるみるうちに成長し、海を渡って近づいて来た。
 雲の下には透き通ったレースのカーテンが掛かり、その裾が海面を打つ水平な線を描きながら、瞬く間にすぐそこまでやって来た。
 一陣の冷たい風が頬を打つと、雨のカーテンは瞬くうちに通り過ぎた。
 砂浜には、レースのカーテンの房の丸い跡が、黒真珠をちりばめたかのように美しく、白い砂浜一面に広がっていた。
「オーイ、入ったよー」
 再び山の上から漁師の声が響いた。
 向こうの浜に、近くの家から五、六人の人影が走り出し、三艘の小舟に飛び乗り、櫓を操って全速力で定置網へと向かう様子が見えた。
 夕暮れの暑さの戻った浜には海からの夕風が吹き始めた。うだるような暑さも次第に収まり、ザブッザブッという静かな波の音だけが、海風と共に、心地よいリズムを刻んでいた。

 神の恵みは、穏やかに、人の暮らしを包んでいた。